原状回復特約に関する判例2
東京簡裁判決 平成7年8月8日
事案の概要
賃借人Xは、昭和60年3月16日賃貸人Yとの間で都内の賃貸住宅について賃貸借契約を締結した。賃料月額16万7千円、敷金33万4千円であった。Xは、平成7年12月1日に本件建物を退去してYに明渡した。Yは、その後原状回復費用としてビニールクロス張替え費用など56万5600円を支出し、本件契約の「明渡しの後の室内け建具、襖、壁紙等の破損、汚れは一切賃借人の負担において原状に回復する」との契約条項により、敷金をこれに充当したとして一切返還しなかった。
このためXは、入居期間中に破損した襖張替え費用1万3千円を差し引いた32万1千円の返還を求めて提訴したものである。
判決の要旨
建物賃借契約に原状回復条項があるからといって、賃借人は建物賃借当時の状態に回復すべき義務がない。賃借人は、賃借人が通常の状態で使用した場合に、時間の経過に伴って生じる自然損耗等は賃料として回収しているから、原状回復条項は、賃借人の故意・過失、通常ではない使用をしたために発生した場合の損害の回復について規定したものと解すべきである。
部屋の枠回り額縁のペンキが剥がれ、壁について冷蔵庫の排気後や家具の跡、畳の擦れた跡、網戸の小さい穴については、10年近いXの賃借期間からの自然損耗であり、飲み物を畳にこぼした跡、部屋の家具の跡等については、賃借人が故意、過失または通常でない使用をしたための毀損とは認められない。
以上から、Xの請求を全面的に認めた。