特約の有効性に関しての判例２～修理特約が有効となるための判断基準

仙台簡判　平成８年１１月２８日

事案の概要

賃借人Ｙは、賃貸人Ｘとの間で平成２年２月２８日賃貸借契約を締結し、敷金１９万８千円を支払った。
ＸとＹは、平成６年３月３１日に賃貸借契約を合意解除し、Ｙは同日、本件部屋を退去した。　退去後Ｙ立会いのもとでＡが本件部屋の点検をし、Ａが修繕を要すると判断した箇所及び見積額を記載した「退去者立会点検見積書」を作成したうえで、Ｙにサインを求めたが、Ｙは納得いかなかったため、一旦拒否をした。しかし、Ａから立会いについての確認の意味でのサインを要請され、Ｙはサインしたがその場で金銭は支払わなかった。
Ｘは、補修工事を実施し、３３万６８１０円を出損したため、賃貸借契約書の原状回復義務及び修繕特約に基づき、Ｙに対して修繕費等から敷金を控除した残金の支払を求めて提訴した。

判決の要旨

１．Ａの証言は、修繕を要すると判断した損傷箇所の内容などについての具体的明確な説明がなく、Ａが部屋自体がそれほど汚損したという記憶もなかったことから、畳の修理、壁の修繕などには通常の使用により生ずる程度を超える損耗等があったとは認められない。

２．居住用の賃貸借においては、賃貸物件の通常の使用による損耗、汚損は賃料によってカバーされるべきものと解すべきであり、その修繕を賃借人の負担とすることは、賃借人に対して新たな義務を負担させるものというべきであり、特に賃借人がこの義務について認識し、義務負担の意思表示をしたことが必要である。しかし、本件契約締結にあたってこの新たな義務設定条項の説明がなされ、Ｙが承諾したと認める証拠はないため、修繕特約によって、新たな義務を負担するとの部分はＹの意思を欠き無効である。

３．修繕特約は、通常賃貸人の修繕義務を免除したにとどまり、更に特別の事情が存在する場合を除き、賃借人に修繕義務を負わせるものでないと解すべきところ、本件において、特別の事情の存在を認めるに足りる証拠はない。

以上から、Ｘの請求のうち畳の修理、壁の修繕などの費用については、理由がないとして斥けるとともに、Ｙが敷金と支払義務を認めるクリーニング工事、その他の修繕部分については対等額で相殺することを認めた。